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白線文庫

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ぼくらが旅に出る理由

「物語は心の薬」という言葉からはじまって
ここのところなんとはなく考えていた。

おもしろい小説(物語)というのは、
興味深い展開や描写で読み手を引き込み
最後まで惹き付けて離さない。
それは磨けば身に付く技術的なこと。
もちろんセンスだって必要。
でも優れた小説にはそれだけでなく
他にも重要な要素がある。

それは、多かれ少なかれ読み手の誰もが抱えている
心の中の闇にさりげなく光をあてる力を持っている
ということではないかな。
つまり物語にたましいを吹き込むことに
成功しているということ。

だから心が揺さぶられるのだ。
今の自分にぴったりとくるすばらしい物語を
読み終わった時に感じるあのめまいのような、
自分と一緒に世界がふわっと揺れる感じ。
どきどきしてなんだか心許ない、
それなのに心地いい高揚感のあるような、
そんな感覚。
そう、それは「酔い」という言葉で表すのが
近いのかもしれない。

本物の物語の持つ光は優しくあたたかく
闇を照らし出しゆっくりと溶かしていく。
良質の芳醇なお酒の酔いのように。

きっと音楽も一緒なのだな。
旅に出ることもそう。
映画でも絵でも、景色でも。
一杯のコーヒーや
おにぎりひとつだってそうなのかも。
しかるべきときにしかるべき場所にあらば。

そしてぼくらは物語への旅に出る。



昨日読み終わった小説、
ジュンパ・ラヒリの「その名にちなんで」
民族のルーツから物理的にも精神的にも
遠く離れた異国の地で暮らし生きて死ぬ
ひとつの家族を主題に、はかなくも美しい線のような
それぞれの人生が幾重にも折り重なって響く物語。

読み終わって、あっ、やられた。と思ったのでした。
私の中のなにかが溶けていったみたい。
それがなにかはまだわからないけど
(あるいはずっとわからないままなのかもしれない)
溶けたなにかがもっと美しいものになって
自分の中で再結晶するものと信じたいのだ。



もうすぐ世界をぐるっと旅した友が帰ってくる。
ああ、うれしい。
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by hakusenbunko | 2013-07-17 18:12 | 雑記
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